第1章 第一話
乾燥した空気、照りつく太陽、巻き上がる砂。
ここは砂漠の国、アブシール。
風の音と、衣擦れの音だけが辺りを支配している。
「オーギュスタン?」
ラガシュの元に、ユリウスは、ソルトと共に縄に巻かれて突き出された。
ユリウスを見て、興味深そうにラガシュは言う。
「…あの呪われた一族の名か。実在していたのだな」
『オーギュスタン家は呪いの一族』、メディシスでは有名な話だが、まさか敵国のラガシュの耳にも届いているとは。
ユリウスは心底嫌そうに舌打ちする。
ラガシュの褐色の手が、そのユリウスの顎をグイと掴んだ。
「汚らわしい手で俺に触るな、蛮族が」
ユリウスはそう言い放ち、真っ黒な兜の奥から冷たい視線を向ける。
「ほぉ…。よほど命がいらぬと申すか。
それともただの世間知らずか?良家のお坊ちゃん」
ラガシュは、ユリウスの顎を掴んだまま、おかしそうに笑う。
しかし、目は笑ってない。
ユリウスは睨みつけながら、そんなことを考えていた。
「…決めたぞ、余は貴様を飼おう。
のち、貴様の国に乗り込んだ際、『オーギュスタン』が最初に根絶やしにする一族の名だ」
ラガシュは顎を強く持ち、高く持ち上げたのち、その場に打ち倒した。
「さっさと殺せ。お前に仕えるなど、死んだほうがマシだ」
ユリウスはすぐに起き上がると、低い声で吐き捨てるように言った。
「それを決めること。今ここから貴様に権利はない。死んでも構わぬが、貴様の部下を拷問にかけるだけのこと」
ラガシュは配下から渡されたハンカチで手を何度も拭きながら、そう言い放つ。
「お前を…殺す…」
ユリウスは地獄から這い上がってきたような、恨みのこもった声で言った。
その様子に、ラガシュは楽しそうに、
「面白い、その呪いとやら。本物なら、貴様の呪われた血で余を食い尽くしてみよ。
…できるものならな」
と言って、身を翻し去って行った。
「ラガシュ…!この屈辱、忘れぬぞ…必ず、お前の首をもらう」
遠くなる背中に、ユリウスはあらん限りの声で叫んだ。