第4章 言わなくていいか
「顕現も、まだ数振りだけ」
「あー……」
言葉に詰まって、また笑ってしまう。
「ゆっくりやろうかなって」
「戦力不足になったらどうする」
「その時は、その時で」
本心じゃない。でも、否定する言葉が出てこない。本丸にいる刀が少ければ少ないほど、近侍である肥前や既にきてくれた刀に負担がかかるのは知っていた。
肥前は、深く息を吐いた。
「……あんた、本気でここを預かる気あるのか?」
真正面から問われて、言葉を失う。
(あるよ)
あるに決まっている。
でも、それを言うと、次に来る言葉が分かってしまう。
――じゃあ、なんでやらない。
――なんで、そんな顔して笑ってる。
だから、俺は言わなかった。
「まあまあ、そんな怖い顔しないでくださいよ」
軽口のようにヘラヘラと言う。
「俺、昔からこんな感じなんで」
肥前の目が、細くなる。
「……そういう態度が気に入らねぇんだよ」
空気が凍る。
「ヘラヘラしてりゃ、許されると思ってんのか?」
図星すぎて、笑うしかなかった。
「はは……」
喉が、ひくりと鳴る。
「まあ……そうやって生きてきたんで」
冗談のように言ったその言葉に、肥前は一瞬だけ、何か言いかけたようだった。
だが、すぐに口を閉ざす。
「……もういい」
吐き捨てるように言って、机から離れる。
「今日中にその書類は片付けとけ。分かってるよな?」
「はいはい」
返事をしながら、背中を見送る。
肥前が部屋を出ていくと同時に、力が抜けた。椅子にもたれかかると、視界がぐらりと揺れる。
(……やっぱ、きついな)
寝不足も相まって座っているだけでかなりしんどい。
(でも、言わなくていいよな)
どうせ信じてもらえない。誰も助けてくれない。あの時みたいに。
最初から期待されないのはきっと楽だと思っていたけど、意外と精神的にきつい。
端末の画面が、ぼやけて見える。
はぁ、仕事、するか。