第4章 言わなくていいか
「……おい」
低い声。背筋が強張る。
「なにしてんだ、あんた」
顔を上げると、肥前が腕を組んで立っていた。
視線は、俺の机の上——未処理の書類の山に向いている。
「あー……ちょっと、休憩です」
言いながら、つい笑ってしまう。
「休憩?」
肥前の眉が、ぴくりと動いた。
「まだ午前だぞ。それに、その書類、昨日渡したやつだよな?」
「あ、はい。そうですね」
軽く頷く。
言い訳を考える余裕もない。
「……で、なんで端末見てぼーっとしてる」
問い詰めるというより、確認する口調だった。余計胸が苦しくなる、泣きたい。
「いやあ、ちょっと目を通してて」
「何をだよ」
「えっと……その……」
何も見ていない、なんて言えない。
だから、曖昧に笑って誤魔化す。
「情報、ですかね」
肥前は、しばらく黙って俺を見ていた。耐えきれなくて目を逸らしたけど、彼の視線が肌を突き刺す。
「……やっぱりな」
ぽつりと呟かれる。
「やっぱり?」
「いや。報告通りだと思って」
その言葉に、胸の奥がきゅっと縮んだ。
「楽な方に流れる。仕事が詰まると、すぐ気を抜く」
淡々とした声音。あぁ逃げたいな。