第3章 桜の木の下
「とにかく、移動するぞ。本丸は……まあ、見りゃ分かる」
歩き出す背中を追う。
迷いがない足取りだったが、時折こちらを気にするように、わずかに足を緩める。
一本の桜の木が咲き誇る屋敷の入り口で、彼は立ち止まった。
「……ここが、あんたの本丸になる場所だよ」
満開の桜が、風もないのに揺れている。
美しいのに、どこか息苦しい。
「……綺麗ですね」
思わず感嘆の声を漏らすと、肥前は鼻で笑った。
「見た目に騙されんな。こういうのは、大抵ロクなもんじゃねぇ」
桜を眺めている横顔を見て、また思ってしまう。
(……やっぱり、顔、好きだな)
いやいや、こんな状況で、何考えてるんだ俺は。
ふと、肥前が俺の方を振り返る。
「……さっきから、やけに俺の顔見てんな」
やばい、バレた。心臓が飛び上がりそう。
「え!?いや、その、刀剣男士って皆さんお顔が整ってるなぁって!」
自棄になって半分くらい本心を暴露すると、肥前は一瞬黙った。
「……」
数秒の沈黙。
そして、小さく息を吐く。
「……くだらねぇ」
そう言いながら、視線を逸らす。
だが、その声は、最初より少しだけ柔らかくなった気がした。
胸の奥がざわめく。
「早く屋敷に入るぞ」と肥前に急かされ、桜の下で並んで歩くと、影が少し重なった。