第7章 幽霊
「待って!」
袖を掴まれて、思わず舌打ちが漏れる。
「……離せ」
振り払おうとした腕は、思ったよりも簡単に振り切れなかった。あんなに細い体をして。
「…斬らないで」
震えた声。
「お願いだから」
——なんだそれは。
怒りよりも不快さが勝って、振り返る。
目が合った。
……相変わらず、妙に整った顔だ。青白くて、弱々しくて、まるで汚れなど知らなさそうな。
「何を庇ってるんだよ」
あぁ、この顔におれは弱い。
「庇ってるわけじゃない。ただ……あれは」
審神者は言葉を止めた。
「……彼らは、きっと悪意を持ったものじゃないと思う。前に肥前が言ってたろ。残留思念、みたいなものじゃないかって」
だから、なんなんだ。
「……甘ぇんだよ」
そう、吐き捨てる。
「そんな暢気な性分だから、あんな事件やらかしたんじゃねーの?」
あんたは、いつもそうだ。自分を削って、それで全部うまくいくと思ってやがる。
「……そうかもね」
返ってきた声は、意外なほど静かだった。
「ごめん」
続けて謝る声に苛立ちが深まる。あぁムカつく。審神者にも自分自身にも。
「でもさ、幽霊でも、残留思念でも……斬らないであげてほしい」
あんたは…
「また同じことを繰り返す気か?」
「……え?」
「斬らないでほしいだぁ?悠長なこと言ってる場合か?」
掴まれていた袖を振り払って、一歩、距離を詰める。
「その結果、誰かが折れて、誰かが死んで」
報告書の内容が、脳裏を掠める。
「それでも、斬らない選択をするのかよ」
忘れるな。目の前の審神者は、本丸ひとつを壊滅に追い込んだ男だ。