第7章 幽霊
「そうだよ」
少しの沈黙の後、審神者は、あっさりと言い放った。
「……だから、君は俺を許さないで」
彼は、笑った。
口角を上げただけの、薄っぺらいその笑顔からは感情がまるで読めない。
その笑顔が、どうしようもなく癪に障った。時たま、この男はこの世のすべてを受け入れたような顔をする。
「……勘違いするなよ」
カッとなって叫び出したいのを懸命に堪える。
「今は……今は、斬らないことにするだけだ」
審神者の目が、わずかに見開かれる。
「あんたのしたことを許すとか、許さないとかはおれが決めることじゃない。でも……」
あぁ、息が詰まる。
「おれが何を斬るかは、おれ自身が決める、それだけだ」
審神者は目を伏せた。扇形のまつ毛が影を落とす。
「そう……」
彼は小さく息を吐いた。
「でも、ありがとう」
ありふれた表現だけれど、その瞬間、花が咲いたようだった。
そんな場面じゃないのに、ひどく心臓が早鐘を打つ。
呆けてしまって、刀にかけていた手から力が抜ける。
そんな肥前を一瞥して、ふふっと審神者は軽やかに笑うと、「顔を洗ってくる」と一人、部屋を辞した。
時計を見ればもう、夜明けが近い。
肥前はその場に立ち尽くして、しばらく動けなかった。
***