第7章 幽霊
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なんてことない夜にそれは起こった。
審神者が眠りに落ちるまで、部屋に残る。(審神者は肥前が夜毎それを律儀にこなすことに申し訳なさやら仄暗い喜びを覚えていたのだが、それらを肥前が知ることは当然ない…)
灯りを消した後、肥前は壁際に腰を下ろす。内番着のラフな格好だったが、念の為本体を携帯している。
布団の中の気配は未だソワソワと落ち着かず、ふと、視線が合った。
最初の日こそ素直に肥前の夜中の滞在を素直に認めた審神者だったが、「寝顔を見られるのが恥ずかしい」と何日かは少し抵抗する様子を見せた。しかし、肥前が「何かあってはいけない」の一点張りで一向に折れないのに観念したらしい。
最近は何も言わなくなった代わりに、こうして寝付けないときは、時たま、じとっとこちらを睨んでくる。
(機嫌の悪い猫かなんかみたいで可愛いなと、密かに思っている肥前であったが、審神者がそれを知ることは当然ない…)
視線はふいに審神者の方から外され、肥前のいない方に寝返りを打った。
静かだ。だが、悪くないと思ってしまう。
肥前忠広は人斬りの刀だ。でも、こうしてじっと持ち主の枕元にただひたすらに鎮座されるような刀でも在るのは悪くないしれないなと、ぼんやりと考える。
ふと、空気が揺れた。なにか、遠くから微かな声がする。
肥前は迅速に立ち上がり、己の本体に手をかけた。
審神者も目が覚めたようでガバッと起き上がる。
『……あるじさまは、かわってしまった』