第7章 幽霊
「なんでもっと早く言わねぇんだよ……」
苛立ちをできるだけ抑えつつ、本音が漏れてしまう。
「……ごめんね。でもさ、」
審神者は、困ったように笑う。
「言ったら、迷惑かけちゃうかなって」
あんたってやつは。
色々言いたいことはあったが、とりあえずため息にして、逃す。
しゃがみ込んで、視線を合わせる。審神者の肩が、わずかに震えているのが分かる。
「……いいか?何かあったらおれに報告しろ、約束だ」
「……うん」
弱々しく審神者が頷く。
「多分その幻聴は前にいた刀剣男士の残留思念だと思うからそのうち止む、と思う…」
その前に、おれが何かしらの手を打つつもりだが。
縮こまった審神者は何も言わず、じっとしている。恐怖からか安堵からか分からないが、黒目がちの瞳から、一筋涙が溢れた。
「…でも、まぁ、怖いよな」
気付けば、その涙を己のパーカーの袖で拭いていた。自分でも少し驚く。
「……」
審神者は何も言えずに、おれを見上げる。
自分の上目遣いの魅力を自覚してほしいと思いつつ、それで、心が決まった。
「今日は、俺がいる」
「え?」
「あんたが寝るまでこの部屋にいる」
言ってしまった。
「……いいの?」
「…別に」
立ち上がって、布団を指さす。
「とりあえず、横になれ」
審神者は、少し逡巡する素振りを見せた後大人しく従った。
布団に入っても、やはり幻覚が聞こえるのか、落ち着かなさそうな顔をしている。
さっき奪い取ったヘッドホンを返したあと、布団の脇に座った。
部屋の灯りを落とす。肥前は脇差なので夜目は十分利く。
「……肥前」
「…なんだよ」
「ありがとう」
囁くような声。
「……礼を言われるようなことじゃねぇ」
ふふっと笑う声がしたので、少し睨みつけてやるが、次第にその声も止まる。
部屋は静かだ。
(なにか、聞こえるか?)
意味はないだろうが、肥前は意識を澄まし続けた。