第7章 幽霊
俯いた審神者は、入り口に立っている俺に気付く気配もなかったので、近付いて、やや乱雑にヘッドホンを外す。
びくりと肩が跳ね、おれとは真反対に柔和そうな瞳が、こちらを見る。
「…あ、肥前!?どうしたの?」
いつものヘラヘラ笑いをしようとしたみたいだが、口角が、うまく上がっていない。
「どうしたの、はこっちの台詞だ。何してんだよこんな夜中まで」
「…いやぁ、ちょっと、ね?」
「ちょっと、じゃねぇ。何をしてたのか教えろって言ってる」
近付けば、顔色が悪く、目がうろうろと落ち着いていないのが分かる。
少々高圧的に話しすぎたか、と反省しつつ、問いかけに審神者が答えるのをしばらく待つ。
「……あの、物音が気になっちゃってね」
「物音?」
聞き返した瞬間、審神者が、きょとんとした顔をした。
「……え?」
それから、少し間を置いて。
「……もしかして、これ、俺にしか聞こえてない?」
おいおい。また、こいつはなにか隠そうとしていたのか。
「……どういう意味だ」
反省したつもりだったのに、ついつい声が低くなる。
審神者は、視線を泳がせる。
「夜になるとさ、部屋の外の方からさ、何か音聞こえない?」
「足音か?」
「ううん。もっと、こう……」
言葉を探すように、唇を噛む。
「たぶん、刀剣男士、の声…?」
頭の中が真っ白になる。
最初は、うちの子かと思って焦ったんだけどね、どうも違うみたいで……とつらつら話し始める審神者の話を聞きながら、肥前は、はらわたが煮えくり返りそうな怒り、というものを、この人の身を得てからはじめて、感じつつあった。
監視役である肥前自身もこの本丸については詳しく知らない。ブラック本丸の跡地ということ以外は。
そういう場所では、刀剣男士の思念が稀に残留することがある聞いていたが、まさか審神者にだけ聞こえているとは思っておらず、警戒を解いてしまっていた。
「……いつからだ」
できるだけ、平静を装って聞く。
「え?」
「それ、いつから聞こえてたんだよ」
審神者は、少し考えてから答えた。
「……最初の日の夜から、かな」
血の気が引く。
「最初から?」
「うん。でも、疲れてるせいかなって」
くそ、なんでこいつは大事なことを隠すんだ。
心の中で悪態をつく。