第5章 足りない※
肥前が、こちらを見る。眉が、ピクリとわずかに動いた。
「我儘言ってる場合か?」
「……嫌なものは嫌だ」
布団の上で、拳を握る。
頭では分かっている。霊力がなくなったら人間は倒れる。きっと、生きるために必要な処置だ。
それでも。
「……できないよ」
肥前の顔から表情が消える。感情が読み取れない。
「……じゃあ、どうすんだよ」
彼は淡々と続けた。
「このまま倒れ続ける気か?」
「……それでも」
言いかけて、言葉が喉を通らなくなる。
勇気が足りない俺は首を振る。
「……とにかく、嫌だ」
それ以上、言えなかった。
肥前は深く息を吐いた。
「……勝手にしろ」
冷たくそう俺に言い残して彼はくるりと背を向ける。襖が、静かに閉まる。
俺一人が部屋に取り残される。
(……肥前以外は嫌だ、なんて言えるわけないじゃん!!!!!)