第5章 足りない※
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肥前は審神者を近くの空き部屋の布団に下ろした。体の芯が冷え切っている。顔色も悪い。
典型的な霊力切れの症状だ。
「…隠してたな」
審神者は気を失ったままで、返事は返ってこない。
しかしまあ、血色が悪くても全く恐ろしいくらい整った顔である。
苦しそうに寄せられた眉。伏せられた長い睫毛が、頬に影を落としている。
「……これは応急処置だ」
誰に言うでもなく呟く。
そう、これからするのは、緊急の霊力の経口補給。
そっと、慎重に顎に手を添える。
柔らかく冷たい、その感触に生きているか不安になるが、近付けば、微かに呼吸の音が聞こえた。
顔を近付けて、唇に重ねる。
触れるだけの口づけ。
御伽噺のように、審神者がキスで目を開けることなんてなかった。
少しカサついた唇のあわいを舌で割り込む。
「…っんぅ……」
呼吸を奪われたのが苦しかったのか、意識のない審神者が声を漏らす。
目を覚ましたのかと驚いて一旦唇を離してしまうが、起きた気配はない。
喉は乾いているのに、自然と唾液が溢れる。
「…っふぅ、ッん……!」
再び顔を近付け、軽く開いた唇の隙間から舌を滑り込ませる。なんとなく上顎をなぞってやると審神者は眉を寄せて反応した。
そのまま、くちゅくちゅと霊力を乗せた唾液を送り込んでやると、白い喉仏がこくりと動いて嚥下したようだった。
「ん、ん゛ぅ…ぢゅぅ…ッふぅ、ぅぅ……」
「……ンッ……んん……」
2人の静かな吐息と水音だけが部屋に響く。
審神者の紙のような顔色が元に戻るまで、肥前はその作業を続けた。肌がじとりと汗ばんだ。
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