第3章 幕間1
コンクリートの廊下は、どこまでも無機質だった。
どんな技術が使われているのかは知らないが、この建物内の温度・湿度は一年中変わらない。梅雨の気配が入り込む余地は、ここにはない。
「いやあ、忙しい忙しい」
書類の束を抱えた同僚が、軽い調子でぼやく。
「通常観測に事件の後処理、その上、他部署のフォローまでこの人手不足の中、全部回せって?
政府は本当に人使いが荒いよねぇ。まあ、僕たちは人じゃないけど」
「兄者、その愚痴は今日だけでもう五回目だ」
「ありゃ、そうだっけ」
いつものやりとりだった。
前を歩く二人の背中に向かって、鶴丸は小さくため息をつく。
誰が聞いているか分からない廊下で上層部への不満を堂々と口にする髭切の神経は相変わらずだし、内容ではなく頻度を注意する膝丸も大概である。
三人は“事件の後処理”に関する詳細を詰める会議へ向かっていた。
「うちの白丸は相変わらず静かだねぇ」
髭切が足を止め、くるりと振り返る。
話題が自分に向いたことに少し驚きつつ、鶴丸は肩をすくめてみせた。
自分は、鶴丸国永の中でも感情の起伏が薄い個体らしい。
だからどうしたと思って長いこと生きてきたが、それが理由で政府に引き抜かれ、今こうしてここにいる。
人生…いや、刃生とは、何が起こるか分からないものだ。全く驚きである。
「で、あの家の住み心地はどう?」
「悪くはないさ。屋根もあるし、雨漏りもしない」
「こないだの安宿はひどかったねぇ。ピザ丸は一睡もしてなかった」
「寝られなかったのは事実だが、俺の名は膝丸だ、兄者。それではただのピザカッターになってしまう」
「あの丸くてコロコロするやつ、可愛いよねぇ。後でピザ頼もうか」
会話が脱線しかけたところで、髭切はなんとか本題を思い出したようである。鶴丸にこてんと首を傾けて尋ねる。
「それで、問題の審神者は?」
「容態は安定してるぜ」
鶴丸は答えた。
「記憶障害と霊力封印による体調不良は想定内。当初は精神的に不安定だったが、現在は外部への興味も薄く、大人しく過ごしている」
「優秀だね、さすが」
「珍しく弟以外を褒めても、何も出ないぞ」
説明するのが面倒になった鶴丸は、経過報告書をまとめた書類を髭切に押し付ける。
髭切はそれを受け取り、ぱらぱらと目を通しながら続けた。
「それで?」