第2章 ゆらゆら
「でも、なんで、そんな……」
言葉の続きは彼に断ち切られた。
「殺されたくなかったら、大人しく従うことだ」
淡々と、感情の揺らぎひとつ感じられない声色だった。鶴丸は先ほどから窓の外に視線を向けたままである。
雨に滲む夜景を映す横顔は、あまりにも整っていた。
その姿を見ていると、彼が本当に人間なのか分からなくなる。
「もう一度、聞いていいですか」
「なんだい?」
勇気を出したけど、蚊の鳴くような声になってしまった。それでも彼の耳には届いたらしい。
「…あなたは、何者なんですか」
雨音がうるさい。部屋の湿り気が肌に纏わりつく。
「……きみは、なんだと思う?」
たった一言で、足元にあったはずの地面が崩れてしまいそうだと思った。
怖かった。
けれど、考えなければならなかった。
「……同居人、かな」
長い沈黙の末に、そうあってほしいと絞り出したアンサー。
「そう思うなら、それでいいさ」
あまりにも簡単に肯定されて、私は戸惑う。暗い部屋の中で、長い睫毛が彼の頬に影を落とす。
そのとき、急に思い出した。いつもより重い重力と、全身を突き刺す痛みと倦怠感。目の奥がじん、と熱を帯びる。
私の様子に気づいたのか、鶴丸は静かに言った。
「今日はもう休もう。考えすぎると、熱も上がる」
彼は椅子から立ち上がった。空になったグラスを持って部屋を出る。
一人になった部屋の窓の外では、雨垂れが三拍子を刻んでいる。