第61章 ゲリエール
そもそも、こんな店に行こうと本当に私が思ったのか全く覚えていない。入る義理はないのではないか?とも思った。そんな私の戸惑いを見透かしたかのように、女が提案をしてきた。
「ふふ・・・そうですよね?戸惑われるお客様は結構多いんです。ご安心ください。キャバリエ・・・いわゆるエスコート役をご用意させていただきますわ」
少々お待ちください。そう言って、女は入ってきた扉から出ていく。程なくして、翼を広げた鳥のような赤色の仮面を付け、深いブルーのタキシードを着た男性が入ってきた。年の頃は30代中盤といった所だろうか?私と同年代か、少し上のようだった。
「私が今宵、幸運にも貴女のキャバリエを仰せつかりました・・・プスドニムはデューク・・・デュークとお呼びください」
男はわざとらしいほど恭しく礼をした。私のもとに来て、ひざまづき、そっと手を取って甲にキスをした。
「それでは参りましょう・・・マダム・・・」
「リノソンスですわ、デューク・・・」
「おや、失礼・・・ということは、マドモアゼルとお呼びするべきか?マドモアゼル・リノソンス」
『マダム』と『マドモアゼル』の区別が私にはよくわからないが、男性は何やら納得したようだった。結局、私は男性に手を引かれて、女が入ってきたのは反対側の扉から店内に・・・あのバル・マスケに初めて入ることになった。