第26章 嗜虐の悦び
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「お前!何度言ったらわかるだ?あ!?こんなミス、小学生だってしねえよ!」
バン、と机を叩く音で、私は肩をビクッと震わせる。
足が震える。何かを言わなきゃと思うのだけど、言葉が出ない。
新卒で入社した会社は決してブラックではないが、上司が最悪だった。私と4つくらいしか違わない里原主任。仕事はできるが、性格が悪く、些細なミスをあげつらってはこうして人を萎縮させるのを喜ぶような嫌なやつだ。
今日も私だけが皆の前で怒られている。同じ島の社員は主任の性格を知っているので、見て見ぬふりだ。主任の説教は30分近く続いた。
はあ・・・。
給湯室でため息をつく。来客用のポットにお湯を差していると、後ろから新城先輩に声をかけられた。
「公開処刑だったね。大丈夫?」
新城先輩は経理の美人さんだ。会社で旦那さんを見つけて、今旦那さんは別の支社にいるという話を聞いたことがある。さっぱりした性格でありながら、私みたいなどんくさい後輩のことも気にかけてくれる面倒見の良さも兼ね備えていた。
「まあ・・・私が悪いんですけど・・・ね」
ため息がまた出る。正直辛い。
私はあまり陽気な性格でもないし、小学校から大学まで、友達も少なかった。そんなに激しくではないが、いじめのターゲットにされたことも1度や2度ではない。
やっと入った会社でもこうしていじめられるのかと思うと、先行き、暗澹たる思いがする。
「最初は失敗するもんだって」
新城先輩が励ましてくれるが、うまくいくなんてやっぱり思えない。また、一つため息が出る。
そんな様子を見かねたのか、うーん、と先輩は少し考えると、私にあることを教えてくれた。
「夢占モルフェ?」
そ、と明るい表情で先輩はうなずいた。そして、ちょっと声を潜めて、いたずらっぽい顔を見せると、「エッチな夢を売ってくれるのよ。ストレス解消にいいかもよ?」と言った。
場所は裏新宿と呼ばれるところ。
建物の外観の詳細や店主の「ユメノ」のことを教えてくれた。
「先輩は、そこで夢を?」
尋ねると、黙ってウィンクをして、去っていった。みなまで言うまい、ということだろうか。ちょっと、眉唾だったけど、確かにここ数ヶ月、しんどい思いばかりだったので、藁にもすがる想いで私はモルフェに行くことに決めたのだった。