第5章 まだ言葉にしない夏
雄英高校・寮。
昼下がりの共有スペースには、
開いたノートと教科書が散らばっていた。
「なぁこれ、意味わかんなくね?」
上鳴電気が頭を抱える。
「分からないなら、途中式を別紙に書くと分かり易いですわよ」
八百万が冷静に返す。
「夏休みなのに普通に課題多いよね…」
麗日が苦笑する。
——いつもの寮。
——心がどこか軽い夏休み。
白井は、
テーブルの端でノートを広げていた。
林間合宿のあとの日常。
特別扱いも、距離もない。
それが、
こんなにも落ち着く。
「……ここ、こうじゃない?」
静かな声で指摘したのは
心操だった。
「……あ、ほんとだ」
自然に会話が続く。
心操は、隣に座っている。
理由はない。
ただ、そこが空いていたから。
——でも。
二人とも、
その距離が“選ばれたもの”だと、
どこかで分かっている。
⸻
少し離れたソファ。
爆豪は、
参考書を開いたまま、文字を追っていなかった。
——バス。
——隣。
——眠る白井。
思い出すたびに、
胸の奥が落ち着かない。
「……」
これが何なのか、
まだ言語化できない。
でも、
林間合宿で“何かが膨らんだ”のは確かだ。
——守りたい?
——離したくない?
違う。
もっと、単純で。
「……めんどくせぇ」
そう呟いて、
無理やり課題に視線を戻す。