第5章 まだ言葉にしない夏
夕暮れの道。
昼の熱を残したアスファルトが、ゆっくり冷えていく。
白井と爆豪は、手を離すこともなく、
並んで歩いていた。
会話は、ほとんどない。
でも、沈黙は重くない。
「……」
爆豪は、何度目か分からない舌打ちを飲み込んだ。
——言いすぎたか。
——踏み込みすぎたか。
直球で投げた言葉。
逃がさなかった質問。
あれは、
本当に正しかったのか。
「……なあ」
我慢できずに、声を出す。
「さっきの話」
白井が、足を止める。
「……重かったなら、
忘れていい」
視線は、前を向いたまま。
「俺が勝手に踏み込んだ」
それは、
珍しいほど弱い声だった。
白井は、少し驚いた顔をしてから、
ゆっくり首を横に振った。
「……違う」
「追い込まれたんじゃない」
一歩、距離を詰める。
「初めて」
胸に手を当てて言う。
「自分のことを、
ちゃんと聞いてもらえたって思った」
爆豪の目が、わずかに見開かれる。
「……それに」
少し、照れたように視線を逸らしながら。
「勝己に対して、私のこと知って欲しいって、不思議な感情が生まれてる」
はっきりと。
「……まだ、名前は分からないけど」
「嫌じゃない。
むしろ……」
言葉を探して、
小さく笑う。
「嬉しい、に近い」
爆豪の胸が、
どくんと鳴った。
初めて間近でみた、笑顔。
それを見れば充分。
——伝わった。
「……そりゃ」
鼻で息を吐く。
「嬉しくねぇわけねぇだろ」
ぶっきらぼうだけど、
隠しきれない。
二人は、また歩き出す。
並ぶ距離は、
さっきより自然だった。