第81章 奸智術数(かんちじゅっすう)
「あ、ご、ごめん」
沙也加に勧められ、正面の椅子に座る。沙也加はすでに水色のルーズリーフを広げて、シャープペンシルで文章を書いているようだった。ちらっと見ると、先週から着手している掌編小説、のようだった。
構想を前に聞かせてもらったことがあった。
『主人公の男の子には他人が心の傷が、まるで身体に負った傷のように視えるの。
それで、その子が色んな人に出会う中でいろんなことを感じて、成長していく、そんなお話』
確かタイトルは『Injured heart(傷つけられた心)』だったか。ちょっとSFのような、不思議な話。彼女の好きなジャンルだった。
「書けてるの?」
声を掛けると、彼女は曖昧に頷く。あんまり捗っていないのかもしれない。
「うん・・・まあまあ。雄一くんは?」
僕は、別に沙也加ほど『書きたい』人ではないので、実はそれほど熱心ではない。それに、沙也加と違って二次創作も含めて、創作はあまり得手ではなかった。
「うん、まだ何を書くか考え中」
文章を書くこと自体はできるのだが、肝心の「書きたいもの」がない。それでも去年の文化祭のときは、同好会員は会誌『ざつぶん』にひとり一編以上の寄稿が義務付けられていたので、なんとか『日本の神話』についての簡単な論説文みたいなのをひねり出した。
我ながら、調べ学習みたいだなと思ったが、これくらいしか書けないので仕方がない。