第59章 淫祠邪教(いんしじゃきょう)
品々物之比礼は『適合者』以外が使えば、一度の使用で生命が失われる、という甚大な副作用を持っていた。しかも、自分の意志で身につけ、自分の意志で願わなければ使うことができないのである。そんな副作用を押してまで、真白のために品々物之比礼を使ってくれる人物・・・、そう考えて、颯馬は一人の人物に思い至る。
それが名越鉄研だった。
颯馬は鉄研が真白を大事にしていると思い込んでいた。娘を思う父親ならば、品々物之比礼の反作用を知ったとしても、それを使うに違いない、と踏んで、彼は領巾を中類村に持ち込んだのだ。
しかし、颯馬の予想は大きく外れることになる。
彼は、知らなかったのだ。一族の秘密を。
『夫』である分家の男は、道具としか思っていない本家の『子』に一切愛情など有していなかった。
鉄研にとって、真白は一族の神力の供給源・・・その容れ物にすぎないのだ。
しかも、自分は一番誰もやりたくない役をやらされている、ババを引かされているという思いもあった。
「そんな心根で、真白のために生命捨てようなんて思う訳が無い。
どんなに脅してもすかしても、領巾を使おうとしない・・・
颯馬は、さぞかし焦ったやろな」
この時、私達、陰陽師が彼らを襲ったのだ。
そして、真白は颯馬を守るため、疱瘡神として覚醒し、結果、封印するしか方法がなくなってしまった・・・。
「あの子ら、二人とも被害者と言えるわな・・・」
「ひどい話です・・・」
このあと、四分家には陰陽寮による家宅捜索が入ることになっている。呪力の違法行使のほか、今回の疱瘡神の暴走を予期しながら放置したことによる重過失致死罪もしくは殺人未遂罪の適用も視野にいれられる予定だ。
こうして、淫祠邪教の家系、名越家の、長い長い罪の歴史にやっと終止符が打たれることになった。
ただ、真白や颯馬に対する仕打ちに対しては、罪状のつけようがない。
彼らが代々犯してきた、最も重い罪に対して、日本の法律は、それを裁く方法を有していないのだ。
「こんなん、綾音はんには聞かされへん・・・」
冒頭と同じことを、土御門様は再度呟く。
見ず知らずの人が『大切な人を守ろうとしていたから』という理由だけで、自らの命を顧みずに助けようとした、あの心優しい女性が、もしこのことを知ったら、大層ショックだろう。
