第57章 猪突猛進(ちょとつもうしん)
疱瘡神となった真白の目は黒く落ちくぼみ、どこを見ているかも判然としない。意識があるのかもわからない。でも・・・それでも、こうして呼びかけ続けるしか、今の私には手立てがなかった。
ぐう・・・
右手に違和感を感じる。見ると、私の右手が赤く炎症を起こしたようになっていた。とっさに袖をまくると、それは腕全体に広がっていて、背中の方まで続いているようだった。
まさか・・・!
意識すると、身体が重い。40度以上の高熱を出したかのようなだるさだった。身体の自由が効かないことが、疱瘡神の瘴気に晒されているせいばかりではないことに、私は遅まきながら気づいた。
感染・・・している!?
赤咬病・・・。もしかしたら背中は真っ赤に染まっているのかもしれない。
村人同様、私も意識を持っていかれてしまうの?
でも・・・それでも!
「真白さん!お願い!・・・お願い!話を聞いて!!・・・分かって!!!」
渾身の力で叫ぶ。
「二ぃ・・・サま・・・・」
ふらふらと真白が私の首に手を伸ばしてくる。絞め殺す気・・・?
逃げなきゃ、と思ったが、身体が鉛のように重くなっていてまるで言うことを聞かない。身体の内が燃えるように熱い。呼吸が浅くなって、苦しい。意識まで朦朧としてくる。
ダメ・・・このままじゃ・・・やられる!
その時、ふわりと光が私の体を包み込む。
「綾音・・・!無茶をするな」
ダリが私のことを後ろから抱きしめていた。
その身体から立ち上る良い香りが、疱瘡神の瘴気を打ち消してくれているかのようだった。
さらに、おそらく何かの結界を張ってくれているのだろう。身体が少し、楽になった。
「だ・・・ダリ・・・」
本当は颯馬を引き寄せなくてはいけないのだが、安心感が勝ってしまったのか、私はそのままくたりとダリの腕の中に倒れ込んでしまう。ダリはそんな私を抱え、大きく後ろにジャンプをして、疱瘡神との間に距離を取った。
「ダリ・・・ダメ・・・颯馬さんを・・・颯馬さんを・・・」
彼をあのままにしたら、真白は守ろうとしているまさにその人を自分の力で殺してしまう。
そんなのは、絶対、絶対、ダメだ。
「案ずるな・・・瀬良がうまくやっている」