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天狐あやかし秘譚

第47章 病入膏肓(びょうにゅうこうこう)


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【病入膏肓】病が進行し、回復する見込みがなくなること。
病魔が非常に治りにくいところに隠れちゃったよ、みたいな。
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【5年前】
はあ、はあ、はあ・・・・

男がひとり、夜の山道を駆け上がっていた。
季節は夏。真夜中とは言え、昼間帯の熱気が冷めやらない山道を走っていると、それだけで汗が吹き出してくる。しかし、男は喜びに震えていた。

身体が・・・俺の身体が動く!

彼は胸に抱えた玉をぎゅっと抱きしめた。その形状は昔の人が作ったいわゆる勾玉のそれであった。魂をかたどったと言われるその形。その玉の何より不思議なところは、その色だった。白と灰色がうねうねとうねるようにその表面を彩っている。本来、男の体は走ることは愚か、少しの運動で萎えてしまうほど弱っているのだが、それを健康体以上にしてしまう力・・・そんな神のごとき力が、この玉には宿っていた。

ついに・・・ついに手に入れた。

長年、欲しくても欲しくても手に入らなかった健康な身体。やっとだ。やっとここから俺の人生が始まる。

峠に差し掛かり、男は振り向いた。今頃になって村が大騒ぎをしている。本来なら光が灯っているわけがない家々に、次々と明かりがついていく。おそらく、家の者が『泥棒が入った』とでも騒いで、村人を叩き起こし、駆り出しているのだろう。それでも、まさか俺が盗んだとは言っていないだろうな・・・。あの家の者は、プライドだけは高いから。

追いつかれる気はしないが、早く逃げるに越したことはない。とにかく、この玉、この身体を持って、新しい生活を送りたい。

男はその一心で夜の闇を疾駆した。
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