第43章 報恩謝徳(ほうおんしゃとく)
しかし、環の力が弱いのか、一向に女の手が緩むことはない。それに、女は環に全く気づいていない様子ですらある。
頭に血が回らなくなったせいか、周囲の景色が霞んでいった。
環の姿も・・・霞んで・・・
ああ・・・そうか・・・そうだったのか・・・。
拙者は、間違えていたのか・・・。
一旦かすみ、再び焦点が合った、環の姿は、頭が半分轢き潰され、眼球がはみ出し、腕もちぎれかけていた。白だと思っていた衣装は大半が血に染まり、足はあらぬ方向に曲がっている。それは、無惨な姿だった。
そうか・・・お前が・・・お前のほうが・・・
「たまき・・・たまきはああ!!死んだんだあああ!」
死者だったのか・・・。
ぐいっと喉を締め付ける手に力が込められる。爪が首の肉にめり込む。息ができず、急速に四肢から力が抜ける。
『誰か!!誰か・・・!芝三郎を!助けて!』
環よ・・・主は優しいの・・・。
拙者は失敗したのだぞ。絵も渡せぬ、言葉も伝えられぬ。
お主の母君を怒らせてしまった。なのに・・・なのに、主のことだけ考えれば良いものの・・・
『いやー!!!誰かーっ!!』
大きく叫ぶ環の声の向こう、薄れゆく意識の中、遠くで拙者の名を呼ぶ声が聴こえた気がした。あれは・・・綾音・・・か?
その想いを最後に、拙者の魂は闇に呑まれていった。