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天狐あやかし秘譚

第40章 一意専心(いちいせんしん)


☆☆☆
「瀬良ちゃん、それ平気なん?」
私の指先からシュルンと体内に入り込む桔梗を見つつ、土御門様が一応心配する素振りを見せる。そんなに心配なら自分に憑依させればいいのに・・・。

「一応、憑坐(よりまし)としての訓練も受けていますので」
指先から入ってきた桔梗の魂を優しく受け止め、お腹のあたりに運ぶイメージ。体内でくるりと彼女の魂が踊るように回転するのがわかる。それは体内でしばらく回転すると、そのうち、下腹、丹田のあたりで落ち着いた。

憑依が無事に済んだようだった。

『桔梗さん・・・大丈夫ですか?』

心の中で問いかけてみる。

『はい』

彼女のオットリした声が下腹から聴こえてきた。順調のようだった。土御門様もその様子を見て、納得したようだ。

「ほな、まま達、迎えに行こか」
言うと、右手に清香ちゃん、左手に芝三郎を連れて歩き出した。その後ろから私もゆっくりとついていく。

彼らの様子を後ろから見て、私は不覚にも『ああ・・・なんか、これって・・・いいなあ』と、思ってしまった。いけない!と思った時は遅かった。その思いは憑依をして一心同体となっている桔梗にもモロに伝わってしまう。

『瀬良さん・・・あの・・・』

お腹の中、桔梗が声を上げる。そして、その言わんとしていることが、皆まで言う前に、私に伝わってきてしまう。ポロンと零れる涙のイメージが胸に溢れてくる。

『ダメ・・・。それ以上言わないで・・・』

私は強くそう念じた。それ以上、そこに触らないで・・・。できるだけ、強く言いすぎないようにしたが、桔梗にはかなりダイレクトに思いが伝わってしまったようだ。彼女は『ごめんなさい』と言い、その存在を更に小さくした。

あなたは別に悪くないのよ・・・。私が、弱いだけ。お腹の中にあなたがいて、なんだかあったかいのもいけない。彼の子どもを宿したら・・・と妙な気持ちになってしまっていた。ダメだ、こんな不毛な思い・・・伝わってしまわないようにしなきゃいけない。私は必死に冷静さを保とうとしていた。

妙なことに気を取られていたせいか、土御門様が、目の前で急に立ち止まるのに気づくのが遅れ、その背中に衝突してしまう。
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