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天狐あやかし秘譚

第37章 愛別離苦(あいべつりく)


☆☆☆
後部座席にスモークを貼った、黒い乗用車が闇夜を疾駆していた。岡山県と京都府をつなぐ、街道。ウネウネと曲がりくねる山道を進んでいた。

運転席には男性が一人、助手席に一人。

後部座席には桐の箱にしまわれた神宝がしっかりと固定されていた。

助手席の男がスマートフォンで提示連絡を入れる。30分ごとに異常がないことを陰陽寮本部に知らせるルールになっている。次の連絡は30分後だった。

「このまま京都方面へ直進だそうだ。・・・ところで、これ、最後はどこに運ばれるんだ?」
助手席の男が運転席の男に尋ねた。運転席の方も知らないらしく、首を傾げた。
「さあな・・・。多分陰陽寮所管の神社じゃないかと思うが・・・」

移送ルートについては、30分ごとの連絡時に本部から指示がある。ルートを気取られないようにする工夫だ。たしかにそれほど慎重になる必要がこの移送物にはある。

品々物之比礼(くさぐさのもののひれ)

十種の神宝(とくさのかんだから)と言われる散逸した神宝のひとつだ。一般には神話上のもので、実在しないと思われているが、陰陽寮としてはその存在を確認していた。本来は天皇家に属するべきそれは、その全ての所在が不明なままだった。

それが何世紀も経てやっと本来あるべきところに戻るのである。

神宝を取り戻した、というだけで、あの新任陰陽師の浦原とやらは出世してしまうかもしれない。もしかしたら史上最速で位階を授かるかもしれない。

自分はしがない陰陽生なのになあ・・・。
人生の不条理を感じる。

まあ、それでも、この移送任務を果たせば、陰陽師に昇格させてくれるかもしれない。

「おい!次の連絡で運転代われよ」
運転席の男が言う。こいつも自分の同期で同じ陰陽生だ。この任務は二人にとってチャンスであるとも言える。

「分かったよ」
応えたとき、ベチっと妙な音がした。
ん?と思って、フロントガラスを見ると、そこにバッタのような虫がへばりつくように潰れていた。
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