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天狐あやかし秘譚

第37章 愛別離苦(あいべつりく)


そう、彼女が何故死ねたのか。それは、彼女が死ねない理由を考えればわかる。
彼女が死ねなかったのは、彼女が死を一番に望んでいたからだ。海子と清延を殺してしまった彼女は自分を恨み、憎み、絶望し、死を望んだ。

だったら、死が一番の望みではないと気づかせればいいのでは?と私は考えたのだ。

実際に、私は異界で彼女となっていた時、『私』は死を望み続けていた。でも、真の望みは違ったはずなのだ。

だから私は彼女に問うたのだ。『あなたの本当の望みは?』と。
1000年間、誰も彼女に問わなかったことだった。

「それで、彼女の本当の望みは何だったんですか?」
宝生前が聞いてくるが、それについては実は私も正確なところはわからない。首をふるしかなかった。

そして、多分、領巾の魔力から言って、その望みも叶わない・・・ということだ。

「僕は、思うんですが・・・」
草介さんが声を上げる。若干顔が赤いところを見ると、いい感じに彼も酔っ払っているようだ。

「凪子さんは・・・謝りたかった、のではないでしょうか」
そうかも知れない。彼女は海子を殺したかったわけではなかった。妹が嫌いなわけではなかった。ましてや清延のことは愛してすらいた。

「それすら、叶わなかった、としたら・・・なんだか可愛そう」
ポツリと言った。

「そうでもない・・・」
おちょこを傾けていたダリが唐突に話に入ってきた。彼も相当飲んでいるはずだが、顔色が一切変わらない。妖怪だからか?

「あの領巾の力は死人には効果がない。あやつの謝りたい相手は常世におるのだろう・・・だったら、あちらで望みは叶っている、のではないかな」

もしダリの言う通りだったら嬉しい。
この世ではうまくいかないことだらけだったし、辛いことばっかりだったかもしれないけど、もしも、常世で一番の望みがかなっているなら・・・本当に、そうあってほしい。

「あれ?そう言えば、あの領巾は?」
「ああ、あれですか。あれは陰陽寮の京都支局のものが移送しているはずです。極めて危険な宝物ですからね。然るべき機関で保管されるはずです」
宝生前がビールを一口飲みながら教えてくれた。

長かった今回の浮内島の出張。ああ、やっと終わったんだな・・・と思えてきた。
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