第35章 窮鳥入懐(きゅうちょうにゅうかい)
☆☆☆
「ダリ・・・」
薄暗い部屋の中、ダリの腕の中で目が覚めた。
ああ・・・狐神モードのダリ・・・。なんだか、すごく懐かしいよ。
「大丈夫か?綾音・・・。」
そっと体を起こしてくれる。周囲を見ると、少し広めの和室のようだった。部屋の壁にはろうそくが釣ってあるので、相変わらず薄ぼんやりと明るい。
ぐるっと見回している時、一点で目が留まる。
そこには、壁に張り付くように固定された女がいた。髪を振り乱し、拘束を解こうとしている。その女の前で宝生前が印を結んでいる。
あれは・・・ホシガリ様!?
そう、そこには、着物姿のホシガリ様がいくつもの小さい石釘で壁に貼り付けられていたのだった。石釘は身体中に刺さっているようで、その痛みにホシガリ様が悶え苦しんでいる。
「ダリさん・・・綾音さん、目、覚ましたんなら、早く逃げましょう!ちょっとこれ、抑えておくの限界です!」
ホシガリ様・・・?
その瞬間、私の中に、私と『私』の記憶が蘇ってきた。
村はずれの家での父母との会話。
湖での海子と清延様の様子。
雨の夜の悲劇、そして、閉ざされた歪んだ屋敷での苦しみの日々・・・。
「ダリ・・・ダリ・・・」
「いかがした・・・綾音・・・」
一気に押し寄せてきた記憶に心と体が震える。
寒くてしょうがない。心が震えて、身体が崩れてしまいそうなほどの恐怖だ。
「お願い・・・お願い・・・やめて、やめて、やめてえええ!!!」
私は叫んでいた。磔になっているホシガリ様はついさっきまで『私』だった。永劫にも感じられた孤独の日々が幾重の苦痛の刃となって身体を突き抜けていく。
両の手で私は自分の体を抱きしめるようにして叫び続ける。
磔になったホシガリ様の叫びと私の叫びが調律の狂った楽器のような不協和音を撒き散らした。
ダリが、ぎゅっと私を抱きしめるが、それでも私の喉からは叫び声が溢れ出して止まらない。
「どうしたんです!綾音さん!ダリさん・・・!一体何が!」
「分からない・・・とにかく一旦退くぞ、宝生前!」
私を抱えたダリが部屋を飛び出した。その後を宝生前と草介さんがついてくる。
部屋の奥では、宝生前の術で磔になったホシガリ様が、なおも悲痛な叫び声を上げ続けていた。