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天狐あやかし秘譚

第34章 銘肌鏤骨(めいきるこつ)


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【銘肌鏤骨】心に深く刻み込んで忘れないこと。
肌に彫りつけ、骨に刻みつけるほど記憶し、絶対忘れないぞ、みたいな。
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『私』は目を覚ます。

ああ・・・またこの屋敷の中。
一体、何日、いや、何年、ここにいるだろうか?

天から落ちてきた清延殿が目の前の地面で爆ぜる姿を見た後の記憶があまりない。浮内本家の当主が契を果たせと迫ってきたのはかすかに記憶にある。

彼が望むものを領巾に願い、出す。
彼はそれを持ち帰り、私はまた、この屋敷の中だ。

ここには誰もない。
もちろん、生きるのに不自由はない。何でも願えば出すことが出来た。

暗いと思えば明かりが灯った。
腹が減ればどんなに豪奢なものでも並べることが出来た。
病気になったところで、生玉、足玉などの神宝で瞬く間に治癒した。

ただ、果たせないことが三つあった。

ひとつは、この屋敷の壁を壊すこと。
ひとつは、死ぬこと、
そして、最後は、この領巾を身体から取り去ること、だった。

壁を壊すことは、浮内の家を傷つける事になり、契に反する。
そのような願いは『持つことが出来ない』ように呪がかけられていた。

死ぬことが出来ない理由は、わからなかった。
ただ、それは何年かして理解した。

この領巾は『私』が本当に望むものは決して与えてくれないのだ。
試しに『清延様』を願ったことがあったが、現れたのは、土の塊のような人形だけだった。
それ以外の人間は少なくとも一時的には出すことができた。

死ねない理由はこれだった。
『私』は死にたい。だから死ねないのだ。

そして、領巾を外すことも出来なかった。それは、最初に浮内の主に言われていたとおりだった。

私が死ぬまでこの領巾は外すことが出来ないのだ。

昼も夜もわからないこの屋敷に囚われ続ける。
たまに浮内の当主が来て、願いを述べていく。
それを出してやると、かしずいて、屋敷から出ていく。
また、しばらくすると、来て、願いを述べ、ものを持って行く。

闇に囚われ、殆どの時間をひとりで過ごす。時折、発作のように『私』はあの情景を思い出して、気が狂ったように叫ぶ。
叫んで、めちゃくちゃに自分を傷つけて、その傷が癒えて、疲れ果てて眠る。
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