第33章 往古来今(おうこらいこん)
改めて中を伺っている家を眺めるが、小さい藁葺き屋根の家・・・下手すると小屋、と言ってもいいような風だ。とても長者には見えない。
他に家はないだろうか?
周囲を見渡してみるが、全く家は見当たらなかった。もう少し歩いてみようかと思った矢先、ごうと強い風が吹き、私は目を覆う。
きゃあ!
風が収まり、そっと目を開くと・・・周囲はすっかり明るくなっていた。先程まで夜だったのに、真っ昼間に早変わりしていた。ついでに、さっきまで中を伺っていた家もなくなっており、場所自体が別のところになっているようだった。
ここは?
池の畔のようなところだった。池はとてもきれいに澄んでいて、魚が泳ぐ姿がよく見えた。先ほどは虫の声が聴こえており、秋口という感じだったが、昼間であっても、肌寒いほど気温が下がっている。どうやら、季節自体も冬になりつつある、ようだ。時間も変わっている。
どういうことかな、と考え事をしていると、ガサガサ、と音がした。
誰か来る!
私は慌てて木陰に身を隠した。森の方から着物姿で髪の毛をおろした娘と、袴姿の男性が歩いてきた。娘は鼻が少し赤く、目が腫れぼったい感じで、さほど美人、というふうではないように見えた。
「清延様・・・。いよいよ、都にて召し抱えられるとお聞きしました。」
「ああ・・・喜んでくれるか?海子・・・。」
「もちろんでございます。海子は、清延様がお進みになる道が幸多きものであるよう、いつもお祈り申し上げております」
「お前は優しい娘だ・・・海子・・・」
清延と呼ばれた若者は、精悍な顔立ちをしていた。よく日に焼け、体つきはがっしりしているが、どこか優しげな表情をしていた。清延は海子の身体に腕を回す。
「海子よ・・・お主にも一緒に都に来てもらいたい」
その言葉に、海子が驚いたように顔を上げる。刹那、清延が海子の唇を奪った。
「いや、お主がなんと言おうと、連れて行く。儂と添い遂げるのは、主と決めておるのだ」
「清・・・延様・・・」
おずおずと、海子もまた清延の身体に手を回す。もう一度顔を見上げる。今度は優しいキスが交わされた。
「海子!」
突如、二人を恫喝するような声が池にこだました。彼らが来た森の道から、もう一人の娘が駆け出してくる。こちらの娘は海子に比べ、豊かな髪の毛を持ち、顔立ちも整っていた。
