第24章 拈華微笑(ねんげみしょう)
「あの・・・」
なんて、声かけたらいいのかな?
「ずっと・・・待っていたの?」
私が言うと、彼女が顔を上げた。右目は暗い虚のようだが、左目は普通の人間と変わらない、とてもきれいな目になっていた。
清香ちゃんのときと同じだ。
こちらが敵意を持って接すれば、恐ろしい厭魅の姿になるが、こちらが歩み寄ろうとすると少しずつ私達の姿に近くなる。
こっちの気持ちが大切なんだ。
「ずっと、この家を守ろうとしていたの?」
しゃがんで目線を合わせる。じりっと近づいてみた。
木霊はすっと顔を伏せる。私には、それが頷いたように視えた。
どうしよう・・・ここから、何を言えば?
あなたの待っている人は、帰ってこないですよ・・・。
って、そんなこと、言えない。
何も言えずに、沈黙だけが流れた。
「必ず・・・戻ると・・・言いました」
顔を少しだけ上げる。
「あの人は、私を抱きしめてくれました」
そう、感じた。私も感じた。
抱きしめられたときに、あなたが感じた、『温かい』という感覚、多分、あれは生まれて初めて感じた、幸福感・・・。
「待たなければいけません・・・。守らなければ、いけません」
駄目だ・・・多分、ここでいくら話しても、この人の気持ちを変えることなんて出来ない。ずっと、ずっとこの異界で、一人で待ち続けることになる。
だったら・・・だったら・・・。
私は一つの決意をした。
「だったら・・・、私と一緒に、迎えに行こう。あなたの・・・愛しい人を」
木霊が顔を上げた。
その目は両方とも、澄んだ美しい乙女の瞳だった。