第18章 暗雲低迷(あんうんていめい)
「東北で曲がり神やっつけたん、あんたやろ」
「そうだが?」
「えらい助かったわ。あれ、ほんとはわいの仕事やってん。神祓うのメンド、とか思ってたところで、行ったら綺麗さっぱりや・・・ほんま、すごいなあ」
ところで、と続ける。
「なんで、あんさん曲がり神、祓ったん?なんか、あんたに悪さしよった?」
そう、動機がわからない。
こいつが強いのは分かる。それはこの間、御九里の話を聞いて納得した。
だが、普通、あやかしが他の厭魅を祓うなどということはない。その必要がないからだ。もし、それが発生するとすれば、なわ張り争いをしているときくらいだ。つまり、あの曲がり神が、天狐の縄張りに入ってきたか、その逆か。
しかし、どちらも新参者ってわけではないから縄張り争いってのも考えにくい。
じゃあ、なんで?という素朴な疑問だ。
「綾音との逢瀬を邪魔したのでな」
なんて?デートの邪魔されたからぶった切ったてか?
さすが神に近いほどの大妖怪。考えることが違うな。
「わいはまた、周辺住民を守るため、とか思たわ。違うんやな?」
無表情のイケメン狐がぴくっと一瞬片眉を動かした。
「さあな」
へー、否定しないんやな。
こいつ、意外と・・・
「喋っていて良い状況ではないようだぞ、術者」
ダリが目の前を顎でしゃくるようにする。目をやると、何百体という女怪が折り重なるように道いっぱいにひしめいていた。
「行かせとーない、ってことは・・・この先に、おるんやね?あいつらの首魁が」
腕が鳴るなあ。
土御門は持っている大太刀を鞘から引き抜く。
刃渡りが88.2センチ。いわゆる日本刀ではなく、古代に用いられた反りのない太刀である。刀身には三公五帝・南斗・北極・北斗・白虎・青龍が刻まれており、退魔滅殺の効果を有する。
土御門家に代々伝わる製法で作られる、国家を守護するための二振りの太刀のひとつであり、その名を、『将軍剣』といった。
だっさいからこの名前、好きくないんやけどな。
もっと、「七星辰剣」とか「十束の剣」とか、中二病ぽい名前にしてやろと思たけど、親父にえらい怒られた。
ご先祖様がつけた名前、そのまま使わせてもらうしかないっちゅーことね。