第17章 幽愁暗恨(ゆうしゅうあんこん)
スマホ上に展開する光景に息を呑む。
違う!正面の点が左に移ったんじゃない。増えたのだ。
見る間に画面上の自分らの現在地を示す赤い点の右上、左後方、前方、右、後ろ・・・妖魅の出現を表す光点が増えていく。
無数に・・・まるで湧き出てくる雲霞のように。
「何が起こってるの!?」
「敷島さん!?前!」
佐久間の叫び声に顔をあげると、前方に人影が飛び出して来るのが見えた。黒い影、顔が崩れ、汚れたワンピースを纏った、この世のものではない女性・・・。
女怪!?
「あぶねえ!」
佐久間がハンドルを右に切った。同時にブレーキを踏むが間に合わない。ガードレールに衝突する。
「いたたた・・・」
突然のことに敷島はダッシュボードに頭をぶつけてしまった。大丈夫っすかと佐久間が声をかける。
車からなんとか這い出し、周囲を見ると・・・。
「!?」
そこかしこの暗闇から、影から、のそり、のそりと黒い影が立ち上がる。顔が崩れ、腕がもげかけ、足を引きずり、乳房をはだけ、それらはフラフラと自らの怨嗟を晴らすために歩き始める。
「敷島さん・・・これって・・・」
「まずいわ・・・佐久間くん、本部に連絡!それから・・・大鹿島様を呼んで!女怪が・・・溢れてしまう!」
そう佐久間に告げると、敷島は自分のリュックをひっつかんで、目の前にある一番高いビルに飛び込んだ。エレベーターに乗って屋上に。高いところ、とにかく高いところに行かなければ。
なんでかわからないけど女怪が溢れている。女怪は陰気の塊。通常の人間が遭遇すればその気に侵され、病気になってしまうし、下手したら死ぬ可能性すらある。ちょっと霊感の強い人ならその姿が見え、もっと強く影響を受ける。
とにかく、陰気を鎮め、人々を守らなくては。
屋上にたどり着くと、背負っているリュックから金属の符を取り出し四方に据える。中央に懐剣を突き刺し、呪言を唱える。
敷島の術は『音』による結界術。音を金属の符で増幅し、四方を守る。
中央の金器、懐剣がこの場合の音の起点になる。