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天狐あやかし秘譚

第118章 焦眉之急(しゅうびのきゅう)


☆☆☆
ソラマチを見学して、カフェでランチをし、いよいよスカイツリーだ。

エレベーターの中で流れる解説動画に母はいたく感動をしていた。

「はあ・・・待ち時間が長いのもすごいけど、あの映像も凝っとるねえ。東京のエレベーターっち、みんなあげなとなん?」
「そげなことないよ、ここは特別」

エレベーターの扉が開くとそこには関東平野の彼方まで見渡せる絶景が広がっていた。
私が住んでいたところは、ちょっと見渡すとすぐ山だった。これほどに平らな地面というのはあまりお目にかかる機会がない。当然母もそうだった。

「すごいねえ・・・あげな遠くまで平たいっち・・・。それに、この建物の量! びっくりするっちゃ」

無邪気に喜ぶ母。
連れてこられて本当に良かったと思う。

『綾音様!あちらに良い男が・・・!』

相変わらず佐那は男漁りに余念がないが、もう少し・・・

『もちょっと待ってよ!』

ぐっと釘を刺すと、お腹の中にいるので見えないが、なんとなくシュンとしたような感じを感じる。今、いい男、見つけてもしょうがないでしょ!

そんなふうに心の中で言ってみる。
その間も、母は「あ、富士山が!」とか「あれは新宿?」などとはしゃいでいた。

「お母さん、あの辺り・・・あれが皇居なんよ」

スカイツリーから皇居は10キロほど離れているがビルの合間にある緑地のように見える。

「ほお・・・あれが天皇さんのいらっしゃる所なんね。」
「そ、そして、私の職場なんよ」
「あんた・・・ほんとに立派になって・・・」

突然、母がしんみりというものだから、ちょっと『うっ』て言葉が詰まる。そうだよね、私が一番心配かけたもんね。

大学時代、最後にお父さんが亡くなってしまった。姉はすでに海外に転勤が決まっていた。弟もプロチームに入っていた。だから本当は私が母のそばに戻らなくてはいけなかった・・・そう思ったのだけど。

『あなたはあなたの思った道を進みなさい』

母は凛と、こう言い放った。
普段はぼんやりふんわりしているくせに、ああいうときだけはきっぱりと、笑顔で言ってくれた。

だから、私は、自分が目指した『本を作る仕事に関わりたい』という夢を一時でも叶えることが出来たのだ。そして、色々ひどい目にあったけど、結果的にダリに出会えた。
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