第116章 温慈恵和(おんじけいか)
ただ、この術は、ダリたちの存在を完全に見えなくするわけではないらしい。なんというか、目に見えにくく、声などが聞こえにくく、全体的に存在が『気づかれにくく』なるだけのようなのだ。矛盾や破綻があればすぐにこの術は解けてしまうとのことである。例えば、清香ちゃんが母の手を握ったりすれば破綻するし、芝三郎が椅子を倒したりするみたいな大きなアクションを起こせばさすがに母から気づかれてしまうというわけだ。
ただ、大人しくさえしていれば、一緒にいることは出来るし、食事とかはローテーブルで食べてもらったりもできる。その代わり、彼らにはそれなりに息を潜めておいてもらう必要があるのだが・・・。
だ、大丈夫かな・・・。
「しかし、綾音・・・すごい家に住んどるね。一人でこれじゃあ持て余すんやない?」
「え・・・う・・・うん。でもね、これ、社宅なんよ」
「宮内庁やろ?本当に、すごいところに就職したねえ・・・」
母からすれば、大手商社に勤めている長女の琴音、サッカーのヨーロッパリーグで一軍選手として活躍している弟の翔と比べて、いつも心配の種だった私が、安定した就職口を見つけて一安心なのだろう。しきりに『すごいねえ』を連発していた。
「お母さん、夕食まだでしょ?今、準備するけ、食べて」
お揚げ入りのうどんを茹で、常備菜をいくつか出してあげようかと思い、キッチンに立つ。母がいるうちは、多分電子レンジなどを使わないほうがいいだろうと思っての判断だった。