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天狐あやかし秘譚

第113章 実事求是 (じつじきゅうぜ)


みんながみんな、自分の気持ちを見せずに通じ合わずに苦しんでいた。

だから、妻は神にすがったのだ。
『嘘をつかずに、目の前にことに心を傾けていたあの頃の夫に戻りますように・・・』

妻はもしかしたら巫女の血を引いていたのかもしれない。それ故に、その願いが、『祝』となって叶ってしまったのだ。結果として、夫である二重は嘘をつくことができなくなったのだ。

自分から喋るならいいが、人から問われたことに決して嘘をつけなくなる。それは、今のような政治活動が今後、できなくなることを意味していた。

政治活動を取るか
妻との平穏な生活を取るか

それは第三者が答えを出して良いものではなかった。
だから、私は彼らにそれを委ねたのだ。

あの二時間の話し合いで何がなされたのかわからない。
ただ、二時間後、二人から電話があり、和葉くんを引き渡しに行ったとき、なにか二重の顔が晴れやかに見えた気がした。

三人が寄り添うようにホテルの廊下を歩いていく後ろ姿を見て、私は、ああ、なんかうまくいったのだろうな・・・と、そう思ったのだ。

「さあ!ろんろん、飲みましょ!ね?ほうしょうまえしゃん?」
私はそれほどお酒には強くない。カクテル3杯目くらいからだんだん呂律が回らなくなってきた。目の前がぼんやりしてきて、宝生前の顔もダウンライトに滲んで見えるようになってきた。

「ふふふ・・・宝生前さん!・・・わらしはね!宝生前さんがかっこよくって、ほんとにらいすき、らいすきなの!」
大分酔っ払った私は、宝生前の首にぎゅっと抱きついていく。バーチェアから落っこちないようにだと思うが、宝生前はそんな私を抱きとめざるを得なかったみたいで、私はそのままほっぺにちゅうをした。

「ちょ・・・土門様・・・の、飲み過ぎですよ!?」
「へへへっ・・・いいんれす!今日はね?わらしには、神様がついてるんれす!だから、ちゅうもできた・・・宝生前さん!宝生前さん!!」

んもう・・・という彼の呆れたような、それでいて、なんとなくあったかい言葉が耳に落ちてきた。

私の意識がちゃんとあったのは、このへんまでだった。
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