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天狐あやかし秘譚

第111章 先用後利(せんようこうり)


そして、何より、常に冷静沈着で頭が良くて、周囲への温かな配慮を忘れない大人の魅力に満ち溢れた男性なのだ。

もともと、気にはなっていたし、隙あらばアプローチを、と思っていたが、とある事件をきっかけに、私の恋心はますます燃え盛り、もはや心の中の消火隊では対処不能なまでになってしまっていた。

とある事件・・・それは通称『辻神事件』と言われているものである。そこで私は自分を囮にして妖魅『辻神』を捕まえようとしたのだが、逆にそれが作り出す異界に囚われてしまったのだ。
その時、誰よりも早く駆けつけてくれたのが彼だった。私が彼に無茶振りをしたにも関わらず、きちんと私を見つけ出して、ピンチから救い出してくれたのだ。

しかも、助け出す時の、私を辱めないようにする配慮、自身の持てる力を存分に発揮しての事件解決能力、そのどれも素敵としか言いようがないのである。そして、なにより、登場シーンから救出までの一連の所作が・・・所作が・・・

かっこよすぎる!!!

やっぱり、顔の作りも含めて、何もかもが私の胸にストライク。
彼を見るたびに私の目はハートになってしまう。

そんな彼と私であるのだけど、その間にはとんでもない障壁があった。

彼は『ゲイ』なのだ。

話を聞くと、生まれながらと言うか、物心ついたときからずっとずっと男性が好きで、目で追ってしまうのも、触れたいと思うのも、男性ばかりだったという。

性的指向が噛み合わないのだ。

なれるものなら男になりたい・・・これほど痛切にそう思ったことはなかった。
なので、私はキスは愚か、宝生前さんに抱きつくことすらしたことがなかった。

はあ・・・

とぼとぼと寮を出ると、外はどんよりと曇っていた。
梅雨時だ、いつ泣き出してもおかしくない。そんな空を見上げて『泣きたいのはこっちなのです』などと天に対して毒づきたくなる。

そんな思いが天帝の怒りに触れたのか、寮から駅までの道すがらで、ぽつぽつと雨が降り出してきた。

ああ・・・傘、持っていないのです・・・

最初は我慢して歩こうと思ったけれども、坂下門を出て、もう少しで大手町駅の階段があるという所まで来て、我慢出来ないほどの大ぶりになってきてしまった。仕方がないので、和田倉公園の休憩スペースで雨宿りをすることにした。
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