第109章 寤寐思服(ごびしふく)
そんなこと、俺はこれまで一度だって、誰からも言われたことがなかった。もちろん、ダチはいる。でも、友達っていうのは、告白して付き合うものでもないし、当然、『好きだ』とか言い合うことなんてない。
そもそも、親にすら愛されなかった俺は、人に愛される資格なんてないんだ・・・と、心の何処かで思っていた気がする。
だから、この時、俺は、この日暮の真っ直ぐな言葉に、なんて答えていいのか、すぐにはわからなかった。
もしかしたら俺がピンチに陥っているかもしれない・・・そんな不確かな情報だけであそこまで駆けつけてくれた。
俺が悲しいと感じていた時、まっすぐに抱きしめてくれた。
そんな人、俺の半径5メートル以内に生まれてこの方、いたことなどなかった。
だから、日暮のあまりにも真っ直ぐな『好き』という言葉に、俺は戸惑って、なんて言っていいかわからなくなってしまったのだ。
だけど・・・
彼女の思いが冗談なんかじゃないことくらい分かっていたし、大切にしなきゃいけない思いだということも分かっていた。
だから、俺は、できない返事の代わりに、彼女の身体を後ろから、強く、強く抱きしめたのだった。
☆☆☆
風呂から上がり、俺が体を拭いている間、日暮はドライヤーで髪の毛を乾かしていた。タオルを巻いたまま洗面台で髪の毛を乾かしている彼女を見て、俺はまたしても、不思議な気持ちになっていた。
「何?どうしたんですか?」
不意に振り返り、日暮が言った。俺が見つめているのに気づいたからだった。
「あ・・・お化粧・・・落ちちゃって・・・その・・・」
確かに頬にはいつものそばかすが見えていた。でも、どちらかというと、俺はそっちの顔、素顔に近い日暮のほうが『好き』・・・だった。
だから、「化粧していない顔の方が・・・いいから」と言ったのだが、「もう・・・失礼ですよ?」と言われてしまう。
少し考えて、言い直した。
「化粧していない顔『も』、すごく好きだ」
そう言ったら、日暮はちょっと目を逸らして、「もう・・・っ!」と小さな声で言った。
その顔がやっぱりとてつもなく可愛くて、風呂上がりのいい匂いに我慢ができなくなって、俺は彼女をまた、強く抱きしめてしまう。そのまま、二人で自然とベッドに向かい、もつれあうようにしてそこに倒れ込んだ。