第109章 寤寐思服(ごびしふく)
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ぴんぽーん
謹慎食らって4日目、母の葬式の次の日のことだった。
夜8時に、俺の住んでいる官舎の部屋の呼び鈴が鳴った。築50年は経過しているが、陰陽寮によってそこそこのリノベーションがなされていたので、さほど不自由はなく過ごしていた。
ただ、施設面では問題はないのだが、右手が使えない今、不便なのは否めなかった。俺はこれでも一応自炊派なのだが、この腕では包丁ひとつまともに握れない。いきおい食事は片手で食えるもの、パンとか、おにぎりとか、そんなのばかりになっていた。そして、ずっと着たきり雀というわけにはいかないので、着替えもするのだが、洗濯はさらに面倒だった。
昼間は昼間で手持ち無沙汰で困り果てていた。謹慎を食らった身では仕事に行くわけにもいかないし、さりとて普段、屋内でじっとしていることなどほとんどないので、家には暇をつぶすためのアイテムなど全く無い。時間を持て余してしょうがなかった。
というわけで、呼び鈴の話に戻るのだが、こんな殺風景で退屈な部屋だ、友人を招くことなどもしたことがない。なので、呼び鈴など、ネットで注文したものが届く時くらいしか鳴らないわけで、そんな予定もないのに鳴ること自体、とても珍しいことなのだ。
なんだ?
不審に思いながらも俺は玄関のドアを開いた。果たしてそこに立っていたのは。
「み・・・御九里さん・・・こんばんわ」
誰?
そこにいたのは、本当に見覚えのない女性だった。下ろした髪の毛が軽く内側にカールしている人だった。嫌味ではない程度にしっかりとした化粧をしており、唇にはぷるんとした質感のピンクのルージュが引かれていて、パッチリとした瞳が俺のことをくりくりと見つめている。
手には大きめのトートバッグを抱えるようにして持っていて、なんとなくそこからいい匂いがしてきていた。ブラウンかかったグレーの、すとんと落ちるラインが綺麗なジャンパースカート、それから白のブラウスを身につけている。袖がふわりと広がって、手首のあたりでキュッと絞られてて、そのボリュームスリーブがなんとも可愛らしい印象を与えていた。
ど・・・どなたさま?
そう言いかけて、やっと俺はそれが誰なのかに気づくことになる。この顔の輪郭、声・・・これに・・・メガネを掛けさせて、両おさげにして、頬のあたりにそばかすを散らすと・・・
