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天狐あやかし秘譚

第107章 末路窮途(まつろきゅうと)


「恨み持って死んだか、死んだのに気ぃつかへん内にあれこれ悪いもの取り込んでもうたか・・・ありゃ相当人喰っとる・・・もう・・・あかんな・・・」

ジャキっと鍔音を立てて、土御門は手にした刀を抜いた。水に濡れたような美しい刃が、夕日を返して、まるですでに血に染まってしまっているように見えた。

土御門がその刀身を顔にかざすように高く構える。腰を落として右足をぐいと踏み出す。

「見てろ・・・これがワイらの仕事や・・・悪鬼を祓い、天下国家の安寧を導く・・・」

女が顔を上げる。その目は黒く穿たれ、闇だけが眼球の代わりにあった。にやりと大きく笑う口の中も、ただただ無明の闇が広がっていた。

『誰?誰?ダレ?ダアアレェエエ!?』

腕が不自然に長く伸び、その腕を振り乱しながら女の怪異、土御門言うところのゴンリョウが襲いかかってきた。

「天地開闢 四神天帝を奉る!」

呪言の発生とともに、彼の身体から淡い光が立ち上り、それが腕を伝い刀に広がっていく。

「霊光、星辰、日形、月形、極みて退けよ
 東方青帝土公、南方赤帝土公、
 西方白帝土公、北方黒帝土公、
 赤門より再拝せよ・・・」

切っ先に光が集中し、それはひときわ強くなる。そこにとんでもな量の『力』が圧縮されていることは、その時の俺にすら分かった。

「霊光剣戟 急急如律令!」

刀身が最大量の光を放つ。それを大きく上段に振り上げ、土御門は妖魅を睨みつけた。そして、放たれる最後の呪言・・・

「四神霊光檄!」

同時に振り下ろされた刀からは光の刃が迸り、迫りくるゴンリョウを縦に切り裂いた。

『あがああがあ・・・・あが・・・』

両断された妖魅は左右に別れ、そのままバラバラと黒い闇の粒に別れて霧消していった。

あっけない・・・あっけなさすぎるほどの勝利だった。
しかし、俺は身体が震えるのを止めることができなかった。

似ていたからだ。

『母』があの時まとっていた気配に
そこから感じた圧倒的な恐怖に

それを、たったの一撃で・・・

ゆっくりと俺は土御門の方を見た。丁度その時、彼は刀を鞘に納めるところだった。パチン、と小気味良い音を立て、刀身が鞘に消えていった。
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