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天狐あやかし秘譚

第107章 末路窮途(まつろきゅうと)


「痛って・・・ちきしょう・・・なんだよあいつ・・・」
医務室で治療を受けながら俺は毒づいていた。医務室担当の女性陰陽師はそんな俺にニコニコと接してくれてはいたが、土御門の暴挙を止めることはしてくれなかった。

こんなことが数日続いた。
とうとう俺は我慢できなくなって、土御門に殴りかかった。そいつは俺が反抗してくるなんて思ってもいなかったのだろう。俺のパンチはキレイに土御門の腹にクリーンヒットした。

「ぐへえ!!」

みぞおちに食い込んだ拳が相当苦しかったのだろう。土御門は妙な声を上げてうずくまった。
「てめ・・・コナクソ!」
だが、土御門は、すぐに起き上がると飛びかかってくる。俺は夢中で拳を振り回し、奴の身体を押しのけ、地面に組み伏せようとした。しかし、結局、4つも上の男に敵うわけもなく、あっという間に逆転され、逆にこっちが組み伏せられてしまった。

殴られる!

そう思った時、土御門がただでさえ細い目を更に細めて笑った。
「なんや、やればできるやないかい・・・。お前、やっぱ強いなぁ」

何気なく言った言葉だったのだろう。しかし、俺にとって、それは、生まれて初めての『褒め言葉』だった。そう自覚したら、不覚にも涙が出そうになった。

「お?なんや?痛かったか?すまんすまん」

何を勘違いしたのか、土御門は俺の体の上から降り、こっちの身体を引き起こすと、パンパンと身体のホコリを払うようにする。別に痛くてないたわけではないんだが。そうは思ったが、俺は黙っていた。

「お前、ずっとだんまりやけど、なんかあるんか?わいで良ければ話聞くで?」

ぽいと缶コーラを投げてよこされる。こっちに座れと誘われ、俺は土御門の隣に腰を掛けた。

缶コーラを貰ったのも、
こんな風に声をかけられたのも、
思えば初めてのことだった。

だからだろうか。またしても俺は、不覚を取る。俺は、この得体の知れない男に、自分のことを話し始めてしまったのだ。

「名前、教えてくれへんの?」
土御門はスポーツドリンクを呷りながらまたしても聞いてきた。その言葉に俺は肩をビクリとさせる。

触れられたくないところだったからだ。
前みたいに振り払おうかとも思ったが、このときはなんとなくそうしなかった。代わりに短い答えを返す。

「ない」
「は?」
「ねえんだ・・・名前」
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