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天狐あやかし秘譚

第104章 追奔逐北(ついほんちくほく)


・・・

御九里はそのファイルを見ながら考え込んでいた。

「ん?おい!御九里・・・御九里!?」

何度か声をかけられてやっと自分が呼ばれているのに気がついた。短めに切りそろえた白髪に、手入れの行き届いた白い口ひげがトレードマークの左前が何度も自分の名を呼んでいたらしい。

「会議は終わりだ・・・さっさと仕事にもどれ・・・
 それとも何か?気になる事件でもあったか?」
慌てて資料の束を閉じて席を立つ。確かに他の陰陽師たちはすでに退室しているようだった。

「いや・・・別に・・・」
「ふん、そうか・・・」

左前はそう言って、資料を小脇に抱え、会議室を後にした御九里を見送った。その少し丸めた背中を見ながら、奇妙な違和感を感じていたが、声をかけそびれてしまった。

後に彼は、このときのことを、悔いることになるのであった。
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