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天狐あやかし秘譚

第102章 能鷹隠爪(のうよういんそう)


☆☆☆
月明かりの下、船の甲板にはいかつい顔をした男たちがあちらこちらにいた。彼らは見た目は船員を装っているが、その作業服の下にはアーミーナイフや拳銃などを忍ばせていた。

この船はいわゆるコンテナ船と言われる中でも規模が小さいものだ。積まれている荷物の殆どは正規に輸出の許可を受けたものであるが、その中に巧妙に盗難車や国外持ち出しが禁止の動植物などの、いわゆる犯罪絡みの荷物が隠されていた。その中でもトップクラスの違法品が、甲板舳先近くに積まれているいくつかのコンテナに分けて収納されている『性奴隷』達だった。

「【レディ】・・・出港は?」
甲板に配置されている男たちの中でも、特に眼光鋭く貫禄のある男が、舳先近くに立つ女に声を掛ける。『レディ』と呼ばれていたのは、先刻、日暮のIDを弄んでいた女性である。

「そうね・・・あと10分ってとこかしら?万事予定通りよ。」
【レディ】は、振り返ることもなく答えた。

彼女はタバコを吸っているのだろう、ふーっと息を吐くと紫煙が月夜に舞い上がった。

「んで?さっきあんたらが言ってた敵さんとやらは来るんかい?」
「さあ?・・・でも、間に合わないだろうってのが鴻上の予測。これだけの数の船舶から私達の乗っている船を見つけるのは至難の業・・・ってね。」

マーカスと呼ばれた男は、この仕事を引き受けたのを若干、後悔していた。彼が率いる傭兵団【砂漠の薔薇】は、これまで中東で活動をしていたが、日本においしい仕事があるということで配下の傭兵20人ほどを連れてやってきたのだ。仕事は人身売買組織の用心棒兼中東への橋渡し役、と聞いていた。だが・・・

ーあの鴻上ってやつといい、この【レディ】といい、なんか不気味な力を使いやがる・・・

傭兵にとって、戦争は怖いものではなかった。しかし、未知のものはやはり怖い。計算ができないからだ。

ーちっ・・・さっさと貰うもん貰ってトンズラがいいな・・・

ちらりと、後ろのコンテナを一瞥する。

ーあの中にいる20人以上の女たちをUAEまで運べば俺達の任務は完了だ・・・。【レディ】は公海に出れば、中の女を好きに犯して良いと言っていたが、遠慮するのが吉だな。なにせ、あの女たち、連れてこられたときはまともそうだったのに、しばらくしたら人が変わったように淫乱になってやがった。
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