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天狐あやかし秘譚

第102章 能鷹隠爪(のうよういんそう)


カラン、と鴻上が鉄の棒を床に投げ捨てると、私の身体を見る。傷というのは、どうやら太ももについた引っかき傷のことを言っているようだ。鴻上にこのまま押し倒されたら、私は100%純潔を散らすことになるし、今度こそ色情霊の支配力から逃れるすべを失ってしまう。

どうしたら・・・!?

普段の私ならこんな事にならなかったはず、という思いがどうしてもある。思えば、あの研究室にも少しは動物霊がいたに違いない。それにより、『黄色』の薬の影響を多少なりとも受けてしまったのだ。

動物霊を呼び寄せる黄色・・・やっぱり知らない薬を飲むなんて無謀でした・・・。
土門様は怒るでしょうか?

そう思ったが、浮かんできたのは、土門の「ニッ!」といういたずらっぽい笑顔だった。

『何でも試してみなければわかりません!』

そうだね、あなたならそう言うか・・・。

『美澄は術式解析の天才なのです!』

でも、もう帰れないよ・・・きっと、ダメ・・・このまま私・・・
ああ・・・黄色・・・術式・・解析・・・?

その時、諦めかけた私の頭に、ひとつのアイデアが浮かんだ。

最後の最後だ・・・やってダメなら・・・でも!

私は最小の声で呪言を唱え始めた。

「あ?何、テメエ、ブツブツ言ってんだ?とうとう気が触れたか?」

鴻上が私の髪の毛をぐいと掴んで顔を無理矢理に挙げさせた。

「なにしてやがる!」

彼が驚いたのは、私が唇から血を流していたからだろう。私は意識を色情霊に持っていかれないように唇を強く噛んでいたのだ。その痛みで、意識を繋ぎ止める。

そして・・・

「てめえ、まさか、その呪言は!?」

やっと鴻上が私の唱えている呪言に気づいたらしい。それはそうだろう。これは・・・この術式は、お前の術式だ!
紡いだ呪言の果て、私は最後の言霊を放った。

「宣詞 集霊・・・急々如律令!」

そう、私は、彼が薬に描いた『呪紋』により発動させた術式を、『呪言』によって発動させたのだ。私が発動したのは青でも赤でもない。『黄色』だ。それを少しだけアレンジした。
『黄色』の術式は、周囲に漂う動物由来の不浄霊を無作為に取り込むもの。それを私は自分が望む神霊を取り込むものとして進化させたのだ。私が取り込もうとしたのは・・・

助けて!ニャンコ先生!
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