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天狐あやかし秘譚

第91章 人面獣心(じんめんじゅうしん)


☆☆☆
6時間ほどたった後、緋紅はゆっくりと目を覚ました。

左前の術により大きく損傷した右半身の傷は大分ふさがり、炎症による発熱も収まっていた。身体は未だにだるいが、それでも動かすのには大分支障がなくなっていた。

ーここは一体・・・?

天井は見知った屋敷のそれだった。自身の左半身に温かな温もりを感じる。そこからゆっくりと優しい気が身体に流れ込んでくるのも感じていた。

そちらを見ると、目を閉じて軽い寝息を立てている全裸の女がいた。口が半開きになり、胸が軽く動いている。記憶をたどり、それが、供物の女性であったことを思い出した。

起き上がり、右手を見ると、上腕部が縛られており、何者かによって止血がなされていたことを知った。その上、自分が命じたわけでもないのに、足玉の力により癒やされていることも。

「お前が、やったのか?」

寝ている女は当然答えることはなかった。少し唇を噛み、止血帯の代わりとなっていたワイシャツを取り去ると、痺れる右手でそっと女に手を触れた。女の体内にある足玉が緋紅に対して、彼女の寿命が9割方削れていることを知らせた。

少し考える素振りを見せ、緋紅は傍らの衣装箱から着物を取り出し羽織ると、閨から出て謁見の間に出た。

「おい!誰か」

声を上げると襖が開く。

「お呼びでしょうか?」
そこに現れたのは、頭巾を被った屋敷の従者のひとりだった。

「朝方、供物を持ってきたのは、お前か?」
その問いを聞いた従者の胸がどきりと跳ねた。

ーしまった・・・何か粗相が!?

しかし、恐る恐る見上げた緋紅の表情がこれまでに見たことがないほどにこやかであったことで、こっそりと息をついた。

ー良かった、殺されるかと思った・・・。

「はい、私めでございます」
「あの女を選んだのはお前か?」
「はい!」
「そうか、よくやった」

ーよくやった!?・・・お館様が、我々従者を褒めるなど!?

それは、青天の霹靂と言っても過言ではなかった。お館様にとって大和の民である自分らは虫けら同然。役に立つから飼っているだけで、そうでなければ目に触れるだけでも不愉快だと、そう思ってきた。なので、神宝使いや、慰み者として最後は嬲り頃される『供物』は別として、屋敷の従者たちは、全て顔を極力見せないような頭巾を被っているのが常だった。
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