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天狐あやかし秘譚

第91章 人面獣心(じんめんじゅうしん)


はあ、はあ、と力なく喘ぐ緋紅は先程よりも弱っていっているように思えた。ミオは行くなとは言われるし、何をしろとは言われないので、仕方なく、ゆっくりと手のひらで緋紅の体を擦ることにした。

ーどこもかしこも、ものすごく熱い・・・このままじゃ・・・

緋紅は意識が混濁し、ほとんど目も開いていない。時折、悔しそうに何かを呟いてはいたが、それも次第に小さくなっていく。

ミオは昔習った救急法の知識を総動員する。
とにかく、血を止めなくては・・・。

心臓に近いところを縛るといい、と言われた気がするので、拙い知識ながら、右上腕部を緋紅のワイシャツでしっかりと縛ってみる。閨の中を見渡したが、特に他に止血に役に立ちそうなものはない。

ー後は・・・
 
確か、熱が上がりすぎると良くないと言っていた気がする。
とにかく熱を逃さなくちゃいけない。そう考えた。

ー私の体の方が冷たいのなら・・・

最初は遠慮がちに、そのうち、少し大胆に。彼女はそっと緋紅の身体に自分の裸身を密着させていった。緋紅の高熱が、ミオに移っていき、その分、彼の身体が冷えていくように感じられた。

ーこれで合っているのかしら。

あとできることは、緋紅の額に浮かんだ汗を手で拭ったり、身体のあちこちを撫ぜたり、とそれくらいだった。

ミオの行った救急救命法は間違っていた。最初は炎症部位を冷やし、その後温めるべきだったのだ。しかし、この時の彼女の措置は、彼女が『足玉』を飲み込んでいたことで別の意味を持った。

足玉の神力は、『寿命を前借りして現在の身体の健康状態を高める』ことにある。自分についてもそうだが、他者に対しても基本的にこの機序は変わらない。癒やしたい、という思いを持って触れ合うことで、自分の寿命を生命力に変換して相手に流し込むのである。

適合者とそうではない者で何が違うかと言えば、この『変換効率』である。適合者は少ない寿命でたくさんの生命力を生み出すことができ、そうでないものは命の大部分をなげうっても傷を少し治す程度、といった具合である。

緋紅は、ミオの寿命を使って己の傷を癒すつもりだった。それが『供物』の役割なのだ。
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