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【刀剣乱舞】逃げてもいいですか?

第2章 雪国


 閑話休題。

 手入れ部屋と広間はそう離れていなかったので、走ったこともあり案外すぐに着くことができた。駆け込んだ先の部屋では布団が敷かれ、一振りの刀剣男士が横になっていた。血の匂いが部屋に充満しており、くらくらする。一瞬ふらついた私の腰を三日月さんが支えてくれた。服越しに伝わる彼の手の冷たさにはっとして、意識がしゃんとした。
状況を把握しなければ。

 重傷を負ったのは、山姥切国広だった。

 トレードマークである襤褸布は、泥と彼自身の血で染まっており、そのままにしておくのは衛生的に良くないと判断されたのか、本体の刀と共に、彼の枕元に置かれている。
布団の上から覗ける部分にも包帯が巻かれていたが、何箇所も血が滲んでおり、長いまつ毛に覆われた目蓋は苦しげに伏せられていて、かなり痛々しい。
先ほど広間に薬研藤四郎がいたから、おそらく包帯は彼が巻いたものだろう。薬研藤四郎は医学に詳しい個体が多いと習った覚えがある。

 本体である刀は鞘にしまわれておりどんな状態か伺うことはできないが、肉体がここまで傷ついているなら、本体も相当のダメージを受けていると考えていい筈だ。早く、早く手入れをしないと。

 道具と資材を確認した私は、そこに長年使われてきた形跡があるのを見て、少し安堵したあと、さっそく手入れに取り掛かった。
前任の審神者が集めたのであろう手伝い札の在庫もかなりあったので、ありがたく使わせてもらう。

 本体を拝借し、不器用なりに慎重に慎重に作業を進めていく。集中しすぎて、同じ部屋の中にいた三日月さんの存在も、挨拶のときから姿を見せないこんのすけのことも、私はまるで忘れてしまっていた。

 歯車は止まることを知らない。事件はこの瞬間も動き続けている。
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