第2章 雪国
どれだけの時間がかかったかは忘れてしまったが、なんとか山姥切国広の傷を癒すことに成功した。しかし、彼は目を覚まさなかった。後に分かることだが、彼が覚醒するのは、事態が大きく動いたこの半日後である。
そんな未来の話はつゆ知らず、ようやく手入れが終わったので、私は天井を見上げながら大きく伸びをした。
「あ゛ー疲れたーー」
思わずおじさんのような声が漏れる。
そうである。前述の通り、私はこの部屋に眠っている刀以外にもう1人いることをすっかり忘れていたのだ。
しかし、次の瞬間、私は気が付いた。血の匂いが薄れてきて、後方から何かいい匂いがすることに。
ギィーっという音が聞こえそうなくらい、ゆっくりと機械じみた動きで首を回して斜め後ろを確認する。
「その……審神者殿……」
私の目には、あの三日月宗近が少女のように照れているように映った。
(終わった…………)
ありえないレベルの素の姿をいきなり晒してしまった。しかも天下五剣相手に。
「……………(今のはどうか見なかったことに)」
「……………(あいわかった)」
沈黙の中、目線でやりとりをして、なにもなかったことにすることにした。なんとでも言ってくれ。私は自分の尊厳を守るためなら、審神者としての立場を利用して箝口令だってなんだって敷くぞ。
しばらく経った後、三日月さんが咳払いをした。
「審神者殿、先ほどのことは忘れるから、なるべく急いでこの屋敷の結界の補強を……」
失礼かもしれないが私は彼の言葉を遮って叫んだ。
「結界ですね!!今すぐかけましょう!!」
そういえば、ここに来る前も彼の話途中に返事をしたな…重ね重ね失礼な主人で申し訳ない天下五剣……