第7章 一途
気付くと私は死霊となって、彼の刀の中に意識が残ってしまった。
もう少し端的にいうと、鶴丸国永の肉体を意図せず乗っ取ってしまった。
どうする、もう一度やり直すべきか?
ふと、そこで気付いた。
…霊力が少なくなっている。
歴史の修正を繰り返したからか、死という穢れを受けたからか、他者の体に乗り移ったからか。
霊力の残量からして今から本丸全体の歴史を歪めるのは無理だ。
とりあえず、事件を隠蔽しないと。鶴丸に迷惑がかかる。
今思うとめちゃくちゃな対応だが、もう取り返しがつかない事態に、私は動揺していた。
証拠を何一つ残したくない、それだけを願った。
自分の死体は、執務室のゲートから放棄された世界へ捨てた。
疑われる要素は、すべて排除した。
鶴丸の刀についた血は執務室で、緊急の手入れをして元通りに戻した。
犯人を特定できないように執務室を荒らしてみたりもした。
執務室での工作が終わって部屋を出ると、三日月宗近とすれ違った。最後に執務室に入ったことを政府に証言されてはまずいと彼の記憶を消した。このとき、残存する霊力はほとんど使い切ってしまったが、言霊だけはかろうじて操れることがわかった。
とにかく必死だった。
鶴丸国永らしく振る舞おうかと思ったが、どうしてもボロが出そうで部屋に閉じこもった。恋人をなくして悲しんでいるのだと勘違いしてくれたので、その設定を都合よく利用させてもらい、人付き合いは最低限にとどめた。
「刀剣男士には、敵側の思想に唆される可能性を下げるために、歴史修正主義者と接触した記憶を自動的に消去する機構がある」
いつかの日に習った、刀剣男士プログラムの仕様をある日、思い出した。
どうやらこの本丸の他の刀剣男士は、私と会話した時間の記憶を自動的に失っているらしい。あまりにシステムが好都合で気付いた時には久々に笑った。
こうして、私という死霊は、誰にも疑われず、生き延びることに成功した。