第2章 雪国
引きこもり生活が長かったせいで、少しの距離を歩いただけなのに呼吸が浅くなった。この本丸に着いてからなんだか少し息苦しいのは気のせいだと思いたい。貧弱な己の体が憎い。
三日月さんに案内されるままに広間にやってきた。広間には何振りかの刀剣男士が跪座して待ってくれていた。
私なんかにそんな畏まらないでほしい…と内心迫力に圧倒されつつも、上座に通されたので、作法の事前講習で習ったことを必死に思い出した。腰を折ってかがんで、足の親指を重ね合わせ、重心を姿勢に落としながら背を伸ばす。踵は開いて重心がかからないように気をつける……上手く座れただろうか?
ふと顔を上げると、私に一番近い場所に、いつのまにか他の男士と同じく跪座していた三日月さんに微笑みかけられた。きっと私を安心させようとしての行動だったのだろうが、なんだかぎこちない作法を笑われたように感じてしまって気恥ずかしさに全身から汗が吹き出す。
次になにをするべきかが分からなくなってしまって、とりあえず部屋全体を見回すが、なにがどうしたのか、事前に覚えてきた顕現済みの刀のリストよりだいぶ数が少ない。三日月さんを除けば、ちょうど両の手で数えられるほどだろうか。
目線だけ動かして部屋にいる刀剣をなんとか把握する。三日月宗近、加州清光、鶴丸国永(相変わらず顔色が悪かったが先ほどの慌てていた様子はない)、大包平、山鳥毛、江雪左文字、薬研藤四郎、にっかり青江、蛍丸、山姥切長義、豊前江…
やはり少ない。事前の資料では実装されている殆どの刀が顕現していたというのに。
「顕現を解いてしまった刀も多くてな」
私が怪訝そうにしていることに気付いた三日月さんが答える。
「訳あって一振りだけ今この場にいないが、それを除けばこれで顕現している刀すべてがここに集っている。新たな審神者よ、これからこの本丸をよろしく頼む」
そう続けて彼は、深々と頭を下げ、他の刀たちもそれに習った。
「みなさん、どうか顔を上げてください。こ、こちらこそこれからよろしくお願いします。新しい審神者の××です」
慌ててしまって声がひっくり返ったし、声量を間違えて半ば叫ぶような有様だったが、刀剣男士たちは私のお願いに従って元の姿勢に戻った。
(××というのは私の審神者名である。まさか神様に向かって真名を明かすわけにはいくまい)
一応挨拶はこれで済んだ……はず。
