第2章 雪国
(なんだったんだ、今のは……)
やはりこの本丸引き継ぎ業務は何か裏があるかもしれない。もう既に無性に帰りたかった。帰りたい帰りたい帰りたい。
「帰りたい……」
思わず口に出してしまった私を、またこんのすけは睨みつけた。…すみません、情けない審神者で。
しかし、そうこうしているうちに、私の帰宅願望なんかは置き去りに、今度は黒っぽいような青っぽいような人影が廊下の奥から現れた。
第二の刀剣男士との邂逅である。
「おぉ、新しい審神者だな。待っていたんだ」
やってきたのは三日月宗近だった。
あまりに美しいものを見ると人間は声が出なくなるらしい。挨拶をしたいのに、喉から出てくるのはカスカスの呼気だけで、私が飢えた魚のように口をパクパクしていると、彼はころころと球を転がすように笑った。
「幽霊でも見たような反応だな。まあ実際にこの屋敷には幽霊のひとつやふたついるかもしれんが…
その様子だと挨拶は落ち着いてからの方がよさそうだ。とりあえず上がってくれ」
と、なにやら意味深なことを呟く三日月さんにエスコートされ、私は玄関を上がり、廊下を進んだ。
三日月さんに近付くと、なにやらいい匂いがする気がする。どこか懐かしさを覚えつつ、足を動かす。一歩を踏み出すごとにギシギシと床材が軋む音がする。
屋敷内は暖房が効いていて、冷え固まった体がほぐれるようだった。