第3章 どこでもない場所
ふと思い出した言葉があった。
([真名]、神々と約束を結んではならないぞ。もし結んだら、その約束を絶対叶えないといけなくなってしまう。それを破ったら……)
破ったら…の続きはなんだったっけ。昔のことだから記憶がぼんやりしている。
それでも、神様の約束は絶対なのだと、そこだけは自信を持って思い出せた。
三日月さんのことは信じきれないけど、彼の「約束」なら信じられる。
「……分かりました。信じます。現世に帰るまで、どうかよろしくお願いします」
ここに来るとき、もう逃げないと決めたのだ。明日の夜明けが来るまででいい。できる限りこの本丸と向き合おう。それが審神者としての任務だ。
ようやく顔を上げた三日月さんに、私は手を差し出す。緊張で少し震えているのは見逃してもらおう。
三日月さんはガラスでも扱うかのように私の手を優しく取って、握りしめた。
深い青色の狩衣の袖を飾る露紐がふわりと揺れた。触れ合った体温はもう冷たくない。
少しして硬く握った手と手が離れる。
その瞬間の少し寂しさを誤魔化すように、私は深く息を吸い込んだ。
彼のそばではいつも懐かしい匂いがした。